インターネットの物理的な姿を追い求めるドキュメンタリー
私たちはふだん、ウェブサイトやメールが、どこを通って自分の目の前まで来たのかを意識することはまずない。それほどインターネットは日常生活にすっかり溶け込んでいる。しかしそのデータは、誰かが送信し、どこかを通ってきたからこそ届いたのだ。著者ブルームはあるきっかけでそうした“モノとしてのインターネット”を強く意識するようになる。つまり、「人類史上もっとも強力な情報ネットワークが、リスの出っ歯でかじられただけで不調におちいった」のを目撃したのだ。やがてブルームは、インターネットそのものをこの目でしかと見ようと決意して、長い旅に出る。多くの人に話を聞き、世界をまたにかけて飛び回る彼が見つけたものとは…
人に勧めるにはちょっと難しい本なんのですが、個人的に感銘を受けたので紹介します。
なぜ勧めるのが難しいかというと、なにしろ興味の無い人には全然面白くないだろうなーと思ったからなのですが。
本書は、家のインターネットがある日突然停止し全く不通になった(原因はリス)ことから、改めてインターネットというモノの物理的な姿に興味を持った著者がひたすらその実態を追い求める軌跡を記録したドキュメンタリーです。
地元のISP(インターネットサービスプロバイダ)から始まり、インターネットエクスチェンジ、海底ケーブルの陸揚局やデータセンターを訪れます。
また、IMP(インターフェイス・メッセージ・プロセッサー)の置かれているUSLAに訪れてインターネットの起源ついても調査しています。
最近では「クラウド(雲)」などと呼ばれるようなったインターネットが実際にどのように繋がれているのか、現実のケーブルによって構築されたネットワークの有様を思い出させてくれる本です。
インターネットは、実際には雲ではない。そんなイメージを信じさせるのは意図的な欺瞞に他ならない。それに、事実上、無線ではない。そこいらじゅうに存在しているわけではないのだ。
この本の中では、キーワードとして「地図」という言葉がよくでてきます。第一章「地図」では TeleGeography (テレジオグラフィー社)が発行しているインターネット地図を確認するところから旅がはじまります。論理的な電子上のネットワークにたいして、物理的なネットワークの姿を認識するのに地図が必要とされるのですね。
改めて、「地図」というものがもつ魅力とその大きな力を感じられる内容でもありました。
この本のテーマは地図上の現実の場所だ。それらの場所の音と匂い、名高い過去、物理的な細部、そしてそこで暮らしている人々だ。まっぷたつに壊れた世界をひとつにまとめる──物理世界と仮想世界を統一する──ため、ぼくはウェブ”所在地”や”住所”を見るのをやめ、本物の所在地や住所を、そしてそこでブーンとうなっている機械を探し出した。
意味深なタイトルは、地図は場所を示すだけのものではないことをあらわしている。地図は、関心を表現したり強化するのだ。
ひとつだけ残念な点があって、それはこの本には地図がついてこないことです。
著者が訪れた場所が掲載されている地図がついてきたら、それを見ていろいろ思いを馳せることができたのにととても残念に思いました。
時間があったら本書に出てきた「場所」のストーリマップとか作ってみたいですね。
普及しすぎて、あまりにも「当たり前」に存在しているインターネットの実態を知りたくなったら、是非読んでみてください。
【余談】
本書の中でところどころ、日本企業に関する話題やエピソードが出てくるのですが、それがあまりに日本らしくて笑ってしまいました。
1つだけ引用します。
「日本の通信会社と契約を結ぼうとしてて、相手を感心させなきゃならないとしよう。でこの建物に二〇人の視察団を案内しなきゃならないとする」とアンデルスンは説明した。そんなときは、アンデルスンのお得意の表現を借りれば”サイバーっぽく”みえなければならない
(中略)
エクイニクス・データセンターはデータセンターらしく見えるように、それも映画『マトリックス』に出てきそうに、過剰にそうみられるようにつくられている。「洗練された顧客をデータセンターに案内して、そこがどんなにクリーンで見栄えがして──かっこよくてサイバーっぽいかを見てもらえれば──契約してもらえるんだよ」
日本のお偉いさん方……見透かされてますよ!