データビジュアライゼーションにおける「わかりやすい」という偏見。あるいは、ベジータ ピンクシャツ問題。
データビュジュアライゼーションでは「分かりやすく伝える」ということが重要になりますが、時としてその分かりやすさがステレオタイプやジェンダースキーマなどと結びついている場合があります。
最近、「ステレオタイプに基づいた”わかりやすさ”は、アリなんだろうか?」という点にについて色々と調べてみたりしているので、とくに結論は出ていないのですが参考とした資料などを載せておきます。
主に、色に関して調べた内容となっています。
男の子が選ばない色としてのピンク
幼児が色を選択する際のジェンダースキーマの影響を研究した論文があります。
CiNii 論文 – 幼児の色彩選好と親のジェンダー意識 : ピンク色選好にみられるジェンダー・スキーマー
幼稚園・保育園児310名に14色「赤色・ピンク色・オレンジ色・黄色・黄緑色・緑色・水色・青色・紺色・紫色・茶色・自色・黒色・灰色」の中から好きな色とその選好理由の回答をあつめ、選好理由を下記の5種類に分けてカテゴライズし分析したものです。
- ジェンダー的理由:女らしさ・男らしさを色彩選好の理由としたもの
例えば「ピンクは女の子の色だから」といった理由- 説明的理由:色彩の説明を理由としたもの。
例えば「赤はりんごの色だから好き」と言った理由- 形容的理由:色彩の形容を理由としたもの。
例えば「白はきれいだから好き」といった理由- エピソード的理由:色彩にまつわる出来事を理由としたもの。
例えば「お絵かきするときによく使う色だから」といった理由- その他:以上の分類に当てはまらない理由づけ
詳しくは上記論文を読んでいただくとして、「幼児の色彩選択」のグラフを見るとピンクだけが他のカラーに対して際立って性差があらわれていることがわかります。男の子の色と言われている「青」でさえ、ここまではっきりとした性差はありません。「ピンク」は他の色に比べて圧倒的に男児に選ばれない色であるという傾向がみられます。
研究結果によると、ピンクは「ジェンダー的理由」によって女児に選ばれる傾向が非常に高いそうです。
ベジータ、ピンクシャツ問題
さて、上記の統計結果からもわかるようにピンクというのは「女の子の色だから」「男の子の色ではないから」という社会的な理由で取捨選択されているカラーではあるのですが、西洋では日本以上にピンク色に対するジェンダースキマーが形成されているようです。
世界中で配信されたアニメ、ドラゴンボールではベジータというキャラクターがピンク色のシャツを着て登場するのですが、このピンク色のシャツが海外のフォーラムで話題になったことがあります。
「It’s Over 9000!」程ではないですが、とにかくやたらウケてしまいミーム化しYouTubeでも多数の動画がアップロードされています。
こちらはパロディ画像の検索結果
ベジータというある意味マッチョ(男らしさ)を代表するキャラクターとピンクのシャツ。シャツに入った「BADMAN」のロゴという組み合わせのギャップは、大きなミームになるほどにショッキングなものだったようです。画像に添えられている「REAL MEN WEAR PINK(真の漢は、ピンクを着る)」などのジョークは、それだけ「ピンクは男の色ではない」という強固なステレオタイプがあることを前提としています。
海外のアニメフォーラムでは、男性キャラクターがピンクのシャツを着ていたりピンク色の携帯などをもっているシーンが描かれると、決まって話題にあがるので日本以上に男性がピンク色の服を着たりすることが避けられているようですね。
海外のYahoo Answersに掲載された下記質問とその回答をみても、そういった状況が伺えます。
いつからピンクは女性を象徴する色になったのか?
はっきりとしたことはわかりませんが、少なくとも近代以前において女性の衣服や装飾品などに好んでピンクが使われていたという形跡はないようです。
ありがちなステレオタイプとして「ピンク色のドレスを着たお姫様」というのがありますが、当時の肖像画などを見てもあまりピンク色の衣服や装飾品が描かれていることはほとんどありません。
ちなみに20世紀に入ると、とたんに「ピンクは女性を象徴する色」という概念が増えます。
たとえば、ホワイトカラー、ブルーカラーに対して、電話交換手など女性の職業とされていた職種を表す「ピンクカラー」という用語がありました。
Pink-collar worker – Wikipedia, the free encyclopedia
「同性愛者」を示すピンク
「ピンク」は「女性の色」ではなく「男性ではない色」という傾向を持つと上記でのべましたが、このカラーが象徴的に利用されたケースがあります。
ヒットラー・ナチス政権にて、強制収容の際に他の男性受刑者と区別するために、男性の同性愛者に対してピンク色の識別胸章が使われました。
ピンク・トライアングル – Wikipedia
ここでは、明確に「男性」と「男性ではない」を示すカラーとしてピンクが利用されています。
当時すでにスキーマが生成されていたのかは分かりませんが、色というものが差別的に利用された事例といえるでしょう。
ちなみにトライアングルに使われたラベンダー・ピンク色は、現在では性的少数者(LGBT)のプライドや権利を象徴するシンボルカラーになっているそうです。
視覚化におけるジェンダーカラー
自分も男性の比率や女性の比率を表す際に、男性を青、女性を赤で表示してしまうことが多いです。
単純に分かりやすいからという理由なのですが、そのわかりやすさが、ある種の偏見や型を前提としているという場合、本当に正しい選択なのかは悩むところだったりします。
この「分かりやすさ」は情報をつたえる際に非常に強力な武器なので難しいところですね。
ちなみに、Googleはこのあたり意図的に避けているようで、アナリティクスのユーザー属性の表示にスキーマを感じさせないような色を使用しています。
さすが、Google。