地図の力、地図の怖さ。
かつて、今は亡き地理学者バーナード・ニーチマン氏は、「銃よりも地図が、より多くの土着の土地を奪ってきた」と述べた。奪われた土地を取り戻す地図の力を認めるかどうかは別にして、集団理解の形成や政治紛争への介入手段における地図の役割は小さくない。
地図にはとても大きな力があります。
2013年、ニューヨークタイムズでもっともアクセスを集めたコンテンツは、インタラクティブな方言地図でした。
How Y’all, Youse and You Guys Talk
グローバル・エディターズ・ネットワークが主催する2014年データジャーナリズム賞において受賞された8作品の内、半数の4作品が地図を用いたデータビジュアライズ作品です。
ニュースを読者にとって身近な「自分事」の問題として提示し大きな反響を得たニューヨークタイムズの「Toxic Waters」もまた、地図を使ったデータビジュアライゼーションが主軸となっていました。
データジャーナリズムにおいて地図は欠かせないツールとなっています。
地図上にプロットされたデータは、それが閲覧者の生活空間とシムーレスに繋がっているという事実を明らかにするため「自分事」であるという意識を否応なしにいだかせる力があります。
だからこそ、時として大きな問題をはらみます。
ニューヨークの地方紙が銃免許保持者のデータを地図上に記載して公開した際には大きな議論が巻き起こりました。
※現在は閉鎖されています。
ミーガン法によって公開されている性犯罪受刑者のデータをプロットした地図を見れば、誰だって自分の住居や生活空間とデータを結びつけて考えずにはいられないでしょう。
カリフォルニア州性犯罪者探査地図
※青いブロックをクリックすると受刑者の顔写真と個人情報が表示されます
地図には、隠された問題を明らかにし多くの人に伝える力もあれば、偏見や差別を助長するようなダークサイドのインフルエンスもあるのです。
地図は私たちに大きな影響を与えます。
このように大きな力を持つ地図ですが、かつては地図を使ったシステムやコンテンツを作るために多大なコストが必要となりました。
個人で地図を使った作品を作成し配信するのはとても困難を伴うものだったため、地図はマジョリティを対象として作成されていました。
地図を使った表現は、限られた人の物だったのです。
しかし、他のありとあらゆる事柄と同じようにインターネットが全てを変え、Googleが壁を壊しました。
Google Maps APIの登場によって、それまで地図の消費者であった多くの人々が、自ら地図をコントロールし情報を伝えるためのツールとして使い始めたのです。
そして今、私たちの手にはより多くの道具が握られています。
私たちには、地理情報を扱うための数多くのオープンソースツールがあり、OpenStreetMapがあり、クラウドサービスがあり、可視化ライブラリを手にしています。
地図を使ったシステムを構築するハードルは、今では四つん這いの赤ん坊でも軽々と超えられるほどに低くなりました。
現在では、
あなたの意見を伝えるために、地図の力を借りることができます。
あなたは、あなたの望む地図を作ることができます。
地図はあなたとともにあります。
余談
ずいぶんと適当なことを書きましたが、とくに専門家ってわけでもないので話半分に聞いておいてください。
ただ、地図を使ったシステムを構築するハードルが非常に低くなっていることがデータジャーナリズムの興隆に一役かっているのではないかとわりとマジで考えていたりします。
映画「サイド・バイ・サイド」によると、デジタルビデオカメラの登場によって、それまで高価な機材を用いなければ難しかった表現が民主化され、またYoutubeなどの動画サイトが生まれたことによって配信のハードルが下がり、新たなプレイヤーが映画界に新風を巻き起こしているそうです。
映画の中でインタビューに答えていた女性監督のように「デジタルビデオカメラがあったからこそ映画を録ろうと思ったし、もしなかったら映画を撮ってはいなかったと思う」という若手監督も増えてきているそうです。
データビジュアライゼーションやデータジャーナリズムの情報を集めていると、地図を使った作品が毎日多数作られ配信されていることに気付くのですが、ハードルが下がったことによって新たなプレイヤーが次々参入しているんだなぁと思った次第です。(その分、地図を用いたヘイトスピーチなんかも増えているので、負の面もあるのでしょうけど)
3.11の時も、虚実混じったさまざまな地図が飛び交いましたね。
地図の力は強大なので気を付けましょう。
参考
下記は、「NASA」が地図の読み方について警鐘を鳴らしている記事です。
読んだ記事やテレビで見たものを全てを簡単に信用してしまってはならないのと同様に、地図上にあるという理由だけで盲目的に情報を信用してはいけません
もうひとつ。Google Mapsに虚偽の情報を掲載できるか?についての記事。
私たちは最近、悪質なユーザーがGoogle Earthに偽のアドレスを入れることは可能であるかという質問を受けました。端的に言えば「イエス」です。
(中略)
とても便利なリソースですが、正しい事が保証されているわけではありません。Google MapsやGoogle Earthのマッピングデータは、常にWikipediaと同様に扱われるべきです。